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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)994号 判決

控訴人 徐炳基

被控訴人 亡嶋本政一訴訟承継人 嶋本雅次 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、控訴代理人が提出し陳述したものと看做された控訴状によると「原判決を取消す。京都地方裁判所昭和三四年(リ)第八号配当異議事件につき、同裁判所が同年九月一五日作成した配当表中、被控訴人等先代嶋本政一に対する配当金四七、五二五円とある部分を削除し、右金員を控訴人に配当すべく右配当表を変更する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人等は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は被控訴人等の陳述した原審口頭弁論の結果によると原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し、原判決二枚目裏一行目の昭和三一年一二月一〇日とあるのは昭和三〇年一二月一〇日の誤記であるからこれを訂正する。)

理由

控訴人が訴外武正に対す京都地方法務局所属公証人本多芳郎作成昭和三四年第二一〇三号公正証書の執行力ある正本に基き同人所有の動産に対し強制執行をなし、その売得金が五五、六九四円であつたところ、被控訴人等先代嶋本政一が昭和三四年六月一五日同人宛の右訴外武正振出に係る(1) 額面三〇万円、満期昭和三〇年一二月一〇日支払地京都市、支払場所自宅、振出日同年六月五日なる約束手形、(2) 額面二〇万円、満期昭和三一年四月五日、振出日昭和三〇年一二月一〇日、その余は右同様なる約束手形上の債権が存在するものとして右売得金につき配当要求をなし、配当裁判所が右配当要求をいれ、昭和三四年九月一五日右売得金中七、一四九円を控訴人に、四七、五二五円を被控訴人等先代嶋本政一に配当する旨の配当表を作成したことは当事者に争がない。

ところで、控訴人は右配当要求の理由となつた約束手形上の債権は存在しない旨主張するので考えるのに、原審証人武正の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、第二号証と同証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、訴外武正は右嶋本政一に宛て前記の如き約束手形二通を振出交付し、死亡当時まで同人がその所持人であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠がないところ、控訴人は右手形はいずれも絶対的記載要件を欠いているから無効であると主張する。しかし約束手形に振出地の記載がなくてもその手形は絶対的記載要件を欠くものとして無効となるものではなく、振出人の名称に附記せられた地において振出されたものと看做され(手形法第七六条第四項)、その効力を有するのであつて、右乙第一、第二号証と弁論の全趣旨を綜合すると、右手形にはいずれも振出当時振出人の肩書住所として京都市伏見区深草森吉町二四番地と記載せられていたことが明らかであるから、右手形はいずれも同所において振出されたものとして有効といわねばならず、他に右要件の欠缺を認むべき証拠もないから控訴人の右主張は理由がない。

次に、控訴人は右手形はいずれも支払のための呈示がなかつたから手形債権の発生する余地がない旨主張するので考えるのに、なるほど右手形が呈示期間内に支払場所に呈示せられたことはこれを認めるに足る証拠はないけれども、債務者たる訴外武正は前記の如く右各手形の振出人であるから呈示のないことによつて右手形債権の存在には何らの消長も来さないし、しかも配当要求の申立をなすには当時債務者において遅滞の責を負うていることを要しないものと解するのを相当とするから、控訴人の右主張も採用し難い。

更に、控訴人は右手形債権は時効により消滅した旨主張するので考えるのに、右手形債権は満期日たる(1) 手形については昭和三〇年一二月一〇日(2) 手形については昭和三一年四月五日から起算し三年の経過により消滅時効が完成すべきところ、原審証人武正の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証と同証言並びに原審における被告本人尋問の結果を綜合すると、振出人たる訴外武正は同月一〇月手形債権者たる前記嶋本政一に対し右手形金の支払義務のあることを認めると共に、その支払の猶予を求め、同年一二月末日に二〇万円、昭和三二年一月以降同年一二月末日まで毎月末二万円宛を支払い、残金は同年一二月末日に完済する旨約したことが認められ、しかも手形債務の承認をなすには手形所持人の呈示を得て承認する必要はなく、債権者が債務者の承認をうける当時すでにその債務者に対し現実に行使しうる手形債権を有していれば承認は時効中断の効力を生じるものであるから、右時効は振出人たる訴外武正の右承認により中断せられると共に、その後の時効は右期限の猶予により債権者たる嶋本政一が権利を行使しうる右弁済期からその進行を始めるものというべきところ、その後三年を経ない昭和三四年六月一五日右嶋本政一において前記手形債権に基いて配当要求をなしたことは前記認定のとおりであつて、配当要求は一種の裁判上の請求として民法第一五二条の破産手続参加と同視すべきものであるから、その後進行を始めた時効も右配当要求により再び中断せられ、消滅時効は未だ完成するに由ないものである。

そうすると、控訴人の本件手形債権の存在しないことを前提として前記配当表の変更を求める本訴請求は失当として棄却を免れない。

よつて、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを失当として棄却すべく、民事訴訟法第三八四条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)

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